仙台市小学5年生
堀内津麦さんへのインタビュー
三浦 菜摘アナウンサー 取材リポート
仙台市の小学5年生 堀内津麦(つむぎ)さんによる、防災への取り組みについて取材しました。その取り組みとは、“物語を書くこと”です。今年4月、津麦さんが書いた物語『灯かりが消えた夜に』が、アンデルセンのメルヘン大賞という童話コンクール・こども部門で入賞しました。物語は、去年の台風19号や東日本大震災を題材にしています。
小さいころから物語を書くのが大好きだった津麦さん。この作品を通して、実際に災害を経験していない子供が、防災について考えるきっかけになってほしかった、と話してくれました。また、作品には災害への備えの意識を高めてほしい、という思いも込められています。
小学生ながら防災意識が高いのは、日頃から、お母さんの睦乃さんから、東日本大震災の話を聞いていたからでした。
また、防災について考えることで生まれた、津麦さんの“自然を大切にしたい”という思いは、作品の中にも込められています。その象徴が“星”。物語でも、様々な場面でその“星”が登場しました。それは、“不安な中で見る星空は安心に繋がった”という睦乃さんの震災当時の話を聞いたことがきっかけでした。
津麦さんは「今のコロナの状況を、これから生まれてくる子供たちに伝えたい」と言います。経験した人が、次の世代に伝えていく。こうした“伝承”が、いつ起こるかわからない災害で、少しでも被害を減らすことにつながるのではないかと感じました。
〈第37回アンデルセンのメルヘン大賞 堀内津麦さんの作品 「灯かりが消えた夜に」〉
台風が街中の灯りを消した夜、ゆうじ君は真っ暗で本も読めないので、ため息をつきながらふと夜空を見上げました。
「あれ?こんなに星があったっけ?」
今まで見たことのないほど、夜空には星がたくさんまたたいていたのです。すいこまれそうなほどかがやく美しい星たちは、見ていてあきません。どのくらいの時間がたったのでしょう。まどから部屋に目をやると、ゆうじ君の家族はみんな一つの部屋でねてしまっていました。つけっぱなしのラジオからは、また新しい台風が発生したと言っています。ねている家族を見てほっとすると、また空に目をやりました。すると、星空がとつぜんぐるぐるとまわりだしたのです。そして真ん中に集まったと思ったら一本の線になり、その線は長い行列になってだんだんとゆうじ君の方に向かってきました。その長い行列は、おおくまざやさそりざなどのたくさんの星ざたちでした。ゆうじ君は、思わず一番後にならびました。
「どこに行くの?」
ゆうじ君は前にいたこぐまざに聞きました。
こぐまざは
「えっとね、風の神様エウロス様に台風を消してもらうようにおねがいしに会いに行くんだ。」
ゆうじ君はギリシャ神話が好きだからエウロス様のことを知っていました。星ざたちの行列は、だんだんと夜空に大きな円を作りました。秋の代表の星ざペガサスが前に出てきました。何が起こるのだろうとゆうじ君がきょろきょろしていると、円の真ん中に、風神とエウロスがあらわれました。
二人は
「わしのほうが強い!」
「いいや、わたしのほうが強い。」
などとどちらが強いか言いあらそっていました。ペガサスがけんかを止めに入りました。
「どうかけんかをおやめくださいませ。あなた達のけんかで大きな台風ができて、とても大きなさいがいがおこっています。だから・・・」
ペガサスがそう言ったとたん風神が
「やはりわしのほうが強かったのじゃ。」
とエウロスに言いました。エウロスは顔を真っ赤にして
「なんだと!その台風はわたしが起こしたのだ!」
二人のけんかはいつまでたっても終わりません。ゆうじ君は自分のことしか考えない二人を見て
「もうやめてよっ。早く台風を消してよ。こっちは大変なんだよ。一階は水でびちゃびちゃになって、家族みんなで二階の部屋でねてるんだ。学校にもいけないんだぞ。」
と二人に大きな声で言いました。その声を聞いた星ざたちは、おどろいてゆうじ君を見て言いました。
「人間がなぜここにいる!わたし達が見えるのか!」
他の星ざたちもざわざわしています。そんなことも気にせず、ゆうじ君は二人に
「けんかしないで早く台風を消してよ。」
何度もたのんでいると、こぐまざが
「そうだよ。けんかよりもまずは台風を消してよ。台風を消さなきゃぼくたち星ざたちは雲でかくされて、見てもらえなくなる!」
そうなのです。星ざたちは地上にいる人たちに星を見てもらうのが仕事なのです。そのことを思い出したかのように、口ぐちに星ざたちがそうだ、そうだと言いだしました。
「そもそもは、人間達が地球を大切にしないのがいけないんだろ。そんな人間のたのみをやすやすと聞くか!」
風神が言うとゆうじ君は
「それはちがうよ。たしかにゴミを道に捨てたりする人もいるけど、そんな人だけじゃないよ。海や森を大切にしている人だっているんだ。ぼくは地球を大切にするよ、地球と仲良くなるよ。やくそくするから、だからおねがい!台風を消して。」
必死にお願いするゆうじ君を見て、エウロスは小さくため息をつくと、
「わかった。台風を消そう。ただし、これからも地球と友達でいるんだぞ。」
そう言って、けんかをしていた風神とどこかへ消えてゆきました。星ざたちも、けんかがおさまったので元の夜空にまた列をなしてもどって行きました。ゆうじ君は星ざたちとまた会おうとやくそくして家に帰りました。
また街中に明かりがもどり、見える星の数は前と同じようにぐっと少なくなりました。ゆうじ君の家のかたづけももうすぐ終わりそうです。暗くなった空を見て、ゆうじ君は少しさびしい気持ちになりましたが、ギュッとこぶしをにぎりしめ、地球と友達になってまた夜空のみんなに会うんだと心の中でちかいました。
〈アンデルセンのメルヘン大賞URL〉